





武家社会において、主君への忠誠は命に勝るものとされ、夫に下された切腹という決断は避けられぬ運命のように見えた。静寂に包まれた夜、夫婦の間に交わされる最後の言葉、そして良乃が胸に秘めた想いとは――。
これまでの時代劇とは一線を画し、武士の妻、夫婦の覚悟に焦点を当てた重厚な人間ドラマとなっている本作。派手な戦いや剣戟ではなく、妻の献身と武士の誇りが交錯する一夜を描き、その静けさに満ちた美しさが国内外で高く評価され、ロンドン国際映画祭2025、エディンバラ国際映画祭2025で最優秀監督賞をはじめとした数々の賞を受賞し、ヘルシンキシネアジア映画祭でも正式出品を果たした。
主人公を演じるのは、柿崎監督作品で存在感のある演技をみせてきた竹島由夏。蟄居を命じられた武士・久蔵を支える妻・良乃を力強く演じ、武士の妻を貫く女性の生き様をスクリーンに刻み込んでいる。共演には前川泰之、藤澤恵麻、黄川田雅哉、酒井敏也、羽場裕一、そして村上弘明といった実力派俳優陣が名を連ね、物語に重厚感を与えている。
文政十二年、江戸。武家の妻・良乃は、蟄居(謹慎)を命じられた直参旗本である夫・古田久蔵と、幼い息子・駒之助とともに静かに暮らしていた。
ある日、旧友・江藤伝兵衛が残した一首の歌が、彼女の平穏を切り裂く。
「夏の世の 夢路儚き もののふの 晴れて行方の 西の雲の端」
それは、久蔵の沙汰が切腹であるという知らせだった。
残された時間で、妻として何ができるのか。久蔵の誇りを守り、息子の未来をつなぐため、良乃は静かに覚悟を決める。
命運の夜、彼女が選んだ道とは――。