





封建の世に生きる武士の妻として、夫を支えながらも、家族を守るために己の意志を貫くひとりの武家の女性がいた。武士社会において、主君への忠誠は命に勝るものとされ、身分や性別による階層は揺るぎないものであった。しかし、そこには現代の価値観では測れぬ、夫婦の深い絆と家族への献身があった。夫婦の間に育まれる信頼、母が子に託す想い、そして主人と奉公人の間に結ばれる固い信義。それらは、己を律し、礼節を重んじる生き方とともに、この時代に根付いた貴重な精神であった。かつての価値観が薄れゆく現代に、その誇りと覚悟に思いを馳せる本格時代劇が誕生した。
柿崎監督作品で存在感のある演技を魅せてきた竹島由夏が主人公、幕府書院番の妻・良乃を演じ、出合正幸が演じる蟄居を命じられた武士の夫・久蔵と過ごす日々を通し、武家社会の中で紡がれる美しい夫婦の情愛と家族愛を描き、武士の妻を貫く女性の生き様をスクリーンに刻みます。共演には前川泰之、藤澤恵麻、黄川田雅哉、酒井敏也、羽場裕一、そして村上弘明といった実力派俳優陣が名を連ね、古き歴史の中で武士の潔さと礼節の観念の物語に鮮烈な印象を与えます。
文政十二年、江戸。武家の妻・良乃は、蟄居(謹慎)を命じられた直参旗本である夫・古田久蔵と、幼い息子・駒之助とともに静かに暮らしていた。
ある日、旧友・江藤伝兵衛が残した一首の歌が、彼女の平穏を切り裂く。
「夏の世の 夢路儚き もののふの 晴れて行方の 西の雲の端」
それは、久蔵の沙汰が切腹であるという知らせだった。
残された時間で、妻として何ができるのか。久蔵の誇りを守り、息子の未来をつなぐため、良乃は静かに覚悟を決める。
命運の夜、彼女が選んだ道とは――。